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糖尿病の食事療法であるカロリー制限食と糖質制限食について

 

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■はじめに 食事療法としての2つのアプローチ

 糖尿病は、インスリンの量や作用の不足により血糖値のコントロールに異常(慢性的な高血糖)が生じる病気です。血糖値の上昇は食事により引き起こされますから、糖尿病の治療と予防には、食事療法が必要不可欠です。

 この食事療法については、伝統的にカロリー制限食が取り入れられていますが、近年では、糖質制限の考え方に基づく「糖質制限食」が提唱されています。

■カロリー制限食

 糖尿病は悪い食生活の積み重ねを原因とする生活習慣病ですから、食事療法の目的は「悪い食生活を正すことで糖尿病の症状を改善させること」になります。いわゆる「カロリー制限食」は、従来から糖尿病患者に提供されている伝統的な食事法で、今でも多くの病院の糖尿病食として採用されています。

 カロリー制限食の特徴は
・適切な量の食事を摂る=摂取カロリーの上限を定める

・バランス良く栄養を摂る=糖質60%:タンパク質15~20%:脂質20~25%

・規則的に食事を摂取する=1日3食きっちり食べる

 摂取可能なカロリーの上限は、糖尿病学会によると、

成人男性では1400~1800Kcal
成人女性では1200~1600kcal

それぞれの性別、年齢、肥満度、活動量、血糖値、合併症の有無などを総合的に配慮して決定

とされています。わかりやすくするためにごく簡単にいえば、「生活の中で消費しきれるだけのエネルギー量を摂取する食事量」ということができるでしょう。

 また、カロリー制限食では、このカロリーを様々な食品からバランスよく摂ることが推奨されています。具体的には、糖質60%、タンパク質15~20%、脂質20~25%の割合でカロリーを摂取することを推奨されることが一般的です。そして、不規則な食事ではなく、朝昼晩を規則正しく食べることも推奨されています。

■カロリー制限職の落とし穴

 カロリー制限食は、糖尿病の人にとって一般的な食事として認知されていますし、今でも大多数の病院の糖尿病食として採用されている食事法です。しかしながら、以下で述べるようなことから、カロリー制限食の糖尿病治療に対する効果は必ずしも十分ではない、カロリー制限食は糖尿病治療に不適切な食事なのではないかとの指摘もあります。

(1)ストイックすぎて継続しづらい

 「カロリーを制限する」ということは、単純に食事量を以前よりも減らすということで、減らした分だけ血糖値は当然低くなります。

 しかし、実際にそれを実施するとなると、1日や2日というのであればともかく、それを長期間(極端に言えば一生)続けるということを考えたときには、カロリー制限はやはり厳しすぎるものではないでしょうか。まず毎食のカロリー計算を正確に行うというのは、大変な作業です。また、食事そのものに目を向けてみても、カロリー制限食(糖尿病食)は、「もの足りない」といった声もしばしば耳にします。

 カロリー制限による糖尿病の食事療法が行われている際には、「過食を招きやすくなるので飲酒は禁止」という取り扱いになることが一般的ですが、このように、カロリー制限の文脈では、「あれはダメ!これもダメ!」というようなことになりがちです。

 そのような事情からか、実際に途中でカロリー制限食を断念してしまったという糖尿病患者は決して少なくありません。「病人なのに我慢できないことが悪い」と結論づけてしまうことは簡単なのですが、果たして本当にそうなのでしょうか。

(2)摂取エネルギーにおける糖質の割合が多いこと
 血糖値の上昇は、「糖質の摂取」によってもたらされますが、「糖質量」は、「炭水化物の総量」から「食物繊維の量」を引いた分量です。

炭水化物=糖質+食物繊維
糖質=炭水化物ー食物繊維

 また、食品に含まれる炭水化物には食物繊維はほとんど含まれていませんので、ほぼ糖質ということになります。例えば、茶碗1杯の白米ご飯150g(252kcal)に含まれる炭水化物の量は55.7gですが、このうち糖質が55.2gを占め、食物繊維は0.5gです。食物繊維の割合の多い野菜サラダのようなものでも、例えばキャベツ100g(150kcal)における炭水化物は5.2g、そのうち糖質は3.4g、食物繊維は1.8gです。

 カロリーベースで60%を糖質から摂取しましょうという食事は、それはすなわち「血糖値の上がる食品からカロリーを摂取しましょう」ということでもあるわけです。

 ところで、平均的な体型の2型糖尿病の方が糖質を1g摂取すると血糖値は3mg/dL上昇すると言われてますしたがって、2型糖尿病の方は、牛丼1杯(糖質約100g)を食べるだけで、計算の上では血糖値が300mg/dLも上昇するということになるのです。

 単純な足し算をしますが、仮に空腹時血糖が110mg/dLの方であれば、牛丼1杯を食べるだけで、血糖値が410mg/dLに到達するということなのです。ですから、カロリーの多くを糖質から摂取することを前提とするカロリー制限食では、食後高血糖は改善されないのではないかとの指摘があります。

(3)減らない合併症患者
 上のような指摘は、合併症患者の数からもうかがい知ることができます。わが国の人工透析患者数は2014年の数字で32万人いて、その原因として最も多いのが、糖尿病の合併症である糖尿病腎症によるものです。人工透析を新しく始める患者の4割が糖尿病腎症を原因としています。

 糖尿病合併症は突然発症するものではありませんから、合併症患者の多くがその前段階において医師の診察を受け(そしてその多くが糖尿病と診断され)、治療(運動療法・食事療法・薬物療法)を受けているはずなのです。カロリー制限食に基づく食事療法は、現在でも多くの病院で採用されている手法ではありますが、人工透析患者数は減る気配はありません。

■糖質制限食

 伝統的な糖尿病食であるカロリー制限食に替わるものとして提唱され、近年広まりつつあるのが糖質制限食です。この糖質制限食は、「血糖値を上げるのは糖質だけだから、この糖質の摂取量を減らすことで、血糖値の上昇を防ぐ」ことを狙った食事療法です。

 「糖質制限」という言葉になじみがなくても、TVCMで有名なライザップで採用されている食事法が糖質制限だといえばピン!とくる方も多いでしょう。いわゆる「炭水化物抜きダイエット」「ロカボ」「低インシュリンダイエット」と呼ばれる食事法です。ごく簡単に言い換えれば、糖質制限食とは「主食(お米、パン、麺)を控えて、おかずを食べる」という食事法です。

 糖質制限食の実施においては、改善すべき血糖値の状態や、肥満の程度などに応じて、摂取すべき糖質量は決められます。最も厳しい糖質制限では、1食当たりの糖質量を20g以下(1日60g以下)に設定する「スーパー糖質制限」から、1食あたり25g~40g前後の糖質量(1日あたり70g~130g程度)に設定する「緩い糖質制限」もありますが、糖質量の定義は明確ではありません。

 とにかく、通常の食事よりも糖質量を減らすことに主眼を置いています。晩ご飯を主食(ご飯類)抜きにする「プチ糖質制限」をするだけでも、一般的な食事に比べたときには十分に糖質を控えていると言えます。

 より積極的な減量を目的とする場合を別にすれば、糖質制限の際には、摂取カロリー量の制限を必ずしも前提としない点で、カロリー制限とは大きな違いがあります。分かりやすく言い換えれば、糖質制限の考えでは、糖質さえ控えれば、脂質とタンパク質は控えることなく満足できるだけ食べても良いということになります。血糖値の観点のみでいえば、タンパク質と脂質の摂取は血糖値上昇とは無関係です。

 カロリー制限においては原則として控えるべきとされる飲酒も、焼酎やウイスキーの類いであれば血糖値の上昇を招きませんから、糖質制限ではOKということになります。最近では、糖質ゼロを謳ったお酒も増えてきました。さらには、ファーストフード店などでも「糖質オフ」のためのメニューが増えつつあります。

 その意味では、「あれもダメ!これもダメ!」ということになりがちなカロリー制限食に比べて糖質制限は「糖質はダメだけど、そのほかはOK!」ということになりますから、実践しやすい、続けやすい食事法ということができます。

 しかし、糖質制限も必ずしも万能な食事療法ではありません。糖質制限食は、肝硬変、すい炎、腎不全の方は適応外です。また現在インスリン注射やSU薬による内服治療を行っている場合には、食事中の糖質を控えたことが低血糖を引き起こす原因になりかねませんので、医師の指導の下に実践される必要があります([参考記事]「糖質制限ダイエットを行なってはいけない病気は5つ」)。

 糖質制限では脂質の摂取が増えますから油への配慮はより重要になります。オリーブ油、ごま油、動物性の油脂は、特段問題ありません(これらの油脂の摂取量が動脈硬化の発生率を下げるというデータもあるくらいです)が、マーガリンなどのトランス脂肪酸や長期間使用した劣化(酸化)した油は動脈硬化を引き起こしやすくなりますから危険です。正しい知識をもった上で糖質制限を実践することが何よりも大切です。

 また、カロリー制限食のところでも触れたように、現在でも多くの病院では糖尿病食としてカロリー制限職が採用されており、糖質制限食を採用している病院は、高雄病院(京都府)などの限られた病院しかないということも、実践の観点からはハードルの一つであるといえるでしょう。

「食べ方」も大事

 ここまで、糖尿病の食事療法として採用される「カロリー制限食」と「糖質制限食」について説明してきました。糖尿病(高血糖)の治療や予防のための食事法としてそのいずれを採用しようとも、「食べ方」が重要であることは変わりがありません。

①食べ過ぎないこと
  カロリー制限食の場合には、食べ過ぎること自体が食事法として理にかなっていないわけですが、糖質制限を行っていたとしても、無制限に摂取するようでは当然太っていきます。

②食べる順序に気を配る
 「食べる順番ダイエット」というダイエット方を耳にすることがありますが、食べる順番に気を配ることも大切です。野菜→肉・魚→ご飯という順序で食べることで血糖値の上昇速度が緩やかになります。

 ただし、これは人によってかなりの差があり、効果があるっていう人から、ない人まで様々です。ですので、「糖質を摂らなければ血糖値は上がらない」ことは人により変わることのない事実ですので、一番は「糖質を摂りすぎない」ことが一番の糖尿病の予防や合併症の対策になります。

[参考記事]
「糖質制限食(低炭水化物食)における糖質1日の必要量」

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