Read Article

広告

糖尿病治療の運動療法、食事療法、薬物療法について解説します

 

広告

■糖尿病治療の目的

 糖尿病は、すい臓から分泌されるインスリンの出が悪いorインスリンの効果が脂肪により阻害されるなどして、血糖値のコントロールが不十分となり引き起こされる病気です。ですから、糖尿病の治療は「血糖値のコントロール」を目的に実施されます。一回糖尿病になってしまうと治すのは非常に難しく、いかに血糖値を上げない生活をするのかがカギになります。

■治療の目安となる指標(HbA1c)

 細胞に吸収されず余った血管内のブドウ糖は赤血球のタンパクであるヘモグロビンと結合します。その際に、グリコヘモグロビンが形成されます。このグリコヘモグロビンの一種がHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)です。当然、HbA1cの数値は、血液中のブドウ糖の過多によって大きくなります。

 血液中のブドウ糖を示す値といえば、血糖値という指標がありますが、これとHbA1cとはどう違うのでしょうか。簡単にいえば、血糖値というのは採血時の値であり、少し前に食べた食事の糖質量によって数値が変動します。つまり、短期的な要因でいくらでも変わります。

 これに対してHbA1cは、過去1~2ヶ月程度の血糖値の状態を探る手がかりとして利用されます。ヘモグロビンそれ自体の寿命は約120日(4ヶ月)であるといわれ、その間少しずつブドウ糖と結合していきますから、HbA1cの値はその寿命のうちの半分程度の期間の血中ブドウ糖の状況を指し示す指標として利用されます。

 このHbA1cの基準は以下の通りです。

[正常型]
HbAlc値
=>5.6から5.9%

[糖尿病]
HbAlc値
=>6.5%以上

[境界型]
HbAlc値
=>6.0%から6.4%

■糖尿病治療の方法

 糖尿病の治療は、(1)運動療法、(2)食事療法、(3)薬物療法の3つの手法によって行われます。

(1)運動療法
 運動それ自体が体内の糖の燃焼を促進させることは当然のこと、運動により筋肉量が増えることが糖の取り込みを促進させます。筋肉は食後に上昇した血糖を取り込んでくれる非常に重要な存在です。さらに、運動により脂肪が減ることはインスリン感受性を高めることにもなります(インスリンの効果が良くなるという意味)。

 一般的な糖尿病治療としての運動は当然、毎日が良いですが、激しい運動ではなく、30分程度の早めのウォーキングで十分です。

(2)食事療法
 運動によって糖が取り込まれやすい状態を作ったとしても、食べ過ぎては意味がありません。それこそ運動によって食欲が増して過食になってしまっては、まさに逆効果であるわけです。したがって、運動療法だけではなくそれと食事療法がセットになることが、糖尿病の治療・予防では重要となります。食後は当然血糖値が上がりやすいですので、運動をすることで血糖値の上がり方を緩やかにすることができます。

(3)薬物療法
 薬物療法は大きく分けて飲み薬によるものと注射によるものがありますが、年齢、肥満の程度、すい臓から分泌されるインスリンの量などの総合的な判断から、実際の投薬方針が決定されます。

■経口薬(経口血糖降下薬)
 いわゆる飲み薬によって糖尿病の治療を行う際の薬は、大きく3つに分類することが可能です。

(1)インスリン抵抗性を改善させるための薬
 糖尿病の原因となるインスリンの問題は、すい臓からの分泌それ自体の異常だけではなく、インスリンを受け取る側の問題(インスリン抵抗性)があります。
※インスリン抵抗性とはインスリンが体内で効きにくい状態

 インスリン抵抗性改善薬は、インスリン抵抗性を改善させるための薬です。チアゾリシン薬がその代表ですが、ビグアナイド薬にもこれと似たような作用があるのでここに分類されます。糖尿病治療の第一選択薬としては、そのエビデンスの多さや薬剤の安さから特にビグアナイト薬のメトホルミンが用いられることが多いようです。

(2)インスリンの分泌を促進させるための薬
 簡単に説明すれば、すい臓のβ細胞を刺激することでインスリンの分泌を促進させるための薬です。これはSU薬、グリニド薬、DPP-4阻害薬があります。

 ①SU薬(スルホニル尿素薬)
 SU薬はインスリンを分泌するすい臓のβ細胞を刺激することでインスリンの分泌の量を増加させるための薬です。したがって、すい臓の能力がある程度保たれていて、インスリンを分泌する機能が残っている時に選択されます。

 SU薬は持続時間が長め(アマリールで6~12時間)で、経口血糖降下薬のなかでは血糖値を下げる作用が最も強力です。SU薬はインスリンの分泌を増やす薬ですから低血糖の副作用に注意しなければならないほか、インスリンの増加が脂肪の合成を促進させますので体重増加(肥満)の副作用があることも指摘されています。なお、SU薬は腎機能・肝機能に障害のある糖尿病患者には処方されません。

 ②グリニド薬(速効性インスリン分泌促進薬)
 グリニド薬は、SU薬と同様にインスリンの分泌量を増やす作用があります。グリニド薬は、SU薬に比べ血糖値低下作用は減少しますが、早く効果が出て、しかも作用する時間が短いことに特徴があります(空腹時に服用すると15分程度で効果があらわれ、約30分で最高血中濃度(ピークタイム)に到達します)。

 したがって、グリニド薬は、毎食直前に服用し、食後高血糖にピンポイントに対応するインスリン(追加分泌)を増加させる薬として効果的な薬です。逆に服用から食事までに時間が空いてしまうと、食事によって血糖値が上昇する前に薬が血糖値を押し下げてしまうために低血糖に陥る可能性があります。

 ③DPP-4阻害薬
 血糖値降下薬としては新しい薬ですが、近年、非常に注目されている薬です。DPP-4阻害薬はインクレチンの血中濃度を高めることで血糖値コントロールを改善させようとする薬です。インクレチンはインスリンの出を良くすることに加え、グルカゴン(血糖値を上昇させるホルモン)の分泌を抑えます。血糖値を下げる作用を促進させ、さらに上げる作用を抑制させるインクレチンは非常に優秀なホルモンであるわけです。

 インクレチンは血糖値が低いときには作用しないので、DPP-4阻害薬は、単独で使用される限りは低血糖の心配はまずありません(SU薬の上乗せとして処方される際には低血糖への注意が必要です)。また、服用開始後しばらくの間吐き気や下痢があらわれることがあります。

(3)インスリンとは別の作用に働きかける薬

①αグルコシターゼ阻害薬(α-GI)
 食事によって摂取された糖質は、小腸でブドウ糖に分解されてから吸収されるようになっていますが、αグルコシターゼ阻害薬は、分解されないように邪魔をします。

 αグルコシターゼ阻害薬はインスリンの分泌に直接働きかけるものではありませんから、単独服用では低血糖の心配はありませんが、その分血糖値低下の効果も限られますので、他の治療薬と併用されることが少なくありません。

 また、この薬は糖質と共に腸内に存在している必要がありますから必ず食直前に服用をしなければなりません。αグルコシターゼ阻害薬は腸内でガスを発生させますので、おならが多くなる場合があります。

②SGLT2阻害薬
 SGLT2阻害薬とは、簡単にいえば血糖を尿から排泄する作用を促進させるための薬です。

 摂取された糖はインスリンの働きにより細胞に取り込まれます。ここで吸収しきれなかった糖については腎臓の近位尿細管において再吸収される仕組みが存在するのです。しかし、SGLT2による糖の再吸収が増えるということは、食後高血糖が空腹時高血糖(慢性高血糖)へと進行することを促進させるという悪循環を引き起こしかねないのです。そこで、このSGLT2の作用を阻害することで、尿糖排泄によって血糖値を低下させようというのがこの薬の狙いです。

 この薬の一番の特徴は腎臓(近位尿細管)に作用する治療薬であるということです。すい臓のβ細胞を酷使することがありませんから、他の治療薬とも併用しやすいわけです。

■インスリン治療
 インスリン治療は、すい臓でインスリンを作れないために外からインスリンを注射して補います。1型糖尿病のようにすい臓がインスリンを分泌できないとき(インスリン依存)には、インスリン治療が必要不可欠となります。

 また、2型糖尿病の場合でも、ここまで説明してきた運動療法・食事療法・経口薬による薬物療法によっても血糖コントロールが良好とならないときにインスリン治療の開始が検討されるのが一般的です。

■おわりに

 ここまで糖尿病治療について特に薬物療法を中心に説明してきました。繰り返しになりますが、糖尿病の治療は「血糖値のコントロール」を目的とするものです。

 糖尿病の薬を飲んでいるからと安心して暴飲暴食を続けているようでは、いずれ内服薬の量が増え(たとえばSU薬などは疲労しているすい臓にさらに鞭を打つ薬)、インスリン注射を行わなければならなくなるという事態を招きかねません。

 また、ES細胞やips細胞を利用した膵(すい)β細胞の再生治療の研究も進んではいるようですが、現在の医療では、細胞一度死んでしまったβ細胞は再生させることができません。「糖尿病が治らない病気」とか「糖尿病は一生の病」などとよくいわれるのはそのようなことがあるからですが、そもそも「治る」という言葉が当てはまらない病気です。

 しかし、すい臓が疲弊してその働きが弱っているだけの状態であるならば、糖尿病の治療によりすい臓を休ませることによって、その働きが回復してくることも十分に期待できます。インスリン注射を卒業できたという糖尿病患者も実際に存在しますし、健康な人とほぼ変わりのない生活を送ることも決して不可能なことではありません。何よりも大切なのは、「糖質摂取量の管理」すなわち日頃の食生活なのです。

[参考記事]
「糖尿病の治療に使われる薬にはどんな種類があるのか」

URL :
TRACKBACK URL :

Leave a comment

*
*
* (公開されません)

Return Top