■動脈硬化とは
動脈は心臓から体の隅々までに血液を送るための血管のことです。
動脈が正しく働くためには、血管の柔軟性が備わっていることが大切なのですが、硬くなることを動脈硬化といいます。動脈が硬くなると血管が狭くなる、詰まりやすくなる、破れやすくなるという重篤な問題が生じやすくなります。
血管が狭くなることで、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞などを引き起こしやすくなります。さらには、血管が硬くなることで、血管が破れやすくもなりますので脳出血などのリスクも当然に増大します。ですから、動脈硬化は非常に危険で放置しておいてはいけない症状です。
この動脈硬化は、加齢によっても進みますから誰にでも起こりうることではあります。しかし、それをさらに加速させる要因として、糖尿病、喫煙、高血圧症、高脂血症、肥満が動脈硬化の五大危険因子と言われています。
■糖尿病と動脈硬化
動脈硬化に関して糖尿病は、喫煙と並んで上の五大危険因子の中でも特に注意を必要します。糖尿病になると、血管が血糖にさらされることで血管が弱くなったり、破れやすくなったりするわけです。
その原因は2つあり、1つ目は使い切れずに余った血液の中の糖と血管のたんぱく質が結びついて終末糖化産物という有害物質を作り出し、血管を老化させること。2つ目は血糖値の急激な上下動による血管へのダメージ。つまり糖質の摂りすぎにより血糖値が高くなり、そのからインスリンの作用で急激に血糖値が下がることで、血管が傷付きます。これら2つを原因として動脈硬化が進みやすくなります。
また、血糖の多い血液は、そうではない血液に比べ血流が悪くなります。濃い砂糖水は、何も混ぜていない水に比べてドロドロしていて流れが悪いことを引き合いにだせば、このことは簡単にイメージしていただけると思います。動脈硬化によって血管内膜が狭くなった上に、血流も悪くなるのですから、当然に血管は詰まりやすくなります。
したがって、心臓への負担もさらに大きくなり、高血圧を招来しますし(圧を上げないと血液が流れなくなる)、それにより血管の損傷が一段と進行するのです。これはまさに悪循環です。
■糖尿病合併症と動脈硬化
糖尿病は簡単にいえば高血糖の病気であるわけですが、高血糖それ自体が原因となって死に至るということは、実はあまりありません。糖尿病が死に結びつくのは合併症を発症した場合がほとんどなのです。これを逆に言えば、糖尿病合併症は、死やQOLの大幅な低下に直結しやすい重篤な症状が多く、糖尿病の治療それ自体の目的は、「合併症の予防」にあるといわれるほどです。
糖尿病の合併症としては、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害がいわゆる三大合併症としてよく知られていますが、これは動脈の働きが鈍くなったことにより、腎臓や網膜、神経細胞の毛細血管への血流が悪くなったり、途絶えたりすることを原因とするものです。これらの細小血管障害は、高血糖が最も重大な要因であることが分かっています。
また、動脈硬化は、先にも触れたように心筋梗塞や脳梗塞、脳卒中の原因となるものです。これらは大血管障害と総称されますが、糖尿病と診断されている人が脳卒中になるリスクはそうではない人の3倍であると言われたりするように、糖尿病は、これらの大血管障害のリスクをさらに高めるものでもあります。
先に糖尿病治療の目的は合併症の予防にあるといいましたが、それはすなわち動脈硬化の進行を遅らせることでもあるのです。
■糖尿病以前でも動脈硬化が始まっている
糖尿病の程度(高血糖の程度)と合併症の発症リスクには相関関係があります。ですから糖尿病と診断された場合には、合併症発症を予防するために、慢性的な高血糖を改善するための治療(食事・運動・投薬)が行われるのです。
高血糖と動脈硬化との関係を考えるときに、気をつけなければならないのは、高血糖による動脈硬化の促進は、糖尿病と診断される前からすでに始まっていることの方が一般的です。まず、糖尿病の診断は、空腹時血糖値、食後血糖値、HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)の値によってなされますが、そのほとんど場合は、特定健診等で空腹時血糖値が不良とされたことをきっかけに発覚するものです。
高血糖の進行は通常、食後高血糖に始まりそれが次第に慢性化することで空腹時高血糖となっていきますから、糖尿病と診断されたということは「診断の前後に初めて高血糖となった」ということではなく、「既に高血糖の状態が続いていた」ということにほかなりません。例え糖尿病と診断されていない方であっても食後高血糖が認められる場合には心筋梗塞や動脈硬化のリスクが高まっていることが様々な研究や調査から既に明らかになっていますので、糖質の摂りすぎには十分気を付けてください。
[参考記事]
「グルコーススパイク(血糖値の急上昇と急低下)とは」