骨粗鬆症の一般的なイメージというと骨の密度が減少し、骨折が生じやすい疾患のことだと思います。女性に多く、主に加齢と閉経によって生じるものとされていますが、最近の研究から糖尿病を患っている人は骨粗鬆症になりやすいということが明らかになってきました。
今回はあまり知られていない糖尿病と骨粗鬆症の関係について解説していきたいと思います。
骨粗鬆症とは?
WHO(世界保健機関)によると骨粗鬆症は
低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴し、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患である
と定義されています。つまり骨粗鬆症とは骨の強度が低下し、骨折のリスクが増大する病気のことです。
骨強度は骨密度(骨量)と骨質の二つの要因からなり、骨密度(骨量)がおよそ七割、骨質がおよそ三割ほど骨強度に影響するとされています。骨粗鬆症に似た病気に骨軟化症(くる秒)というものがありますが、骨軟化症は全体の骨量の減少自体は生じず、骨粗鬆症は全体の骨量が減少するという違いがあります。
骨代謝と骨のリモデリング
私たちの骨は一度体内で作られるとそのまま放置されるのではなく、絶えず代謝され新しく作り直しています。骨の代謝は骨を壊す(骨吸収)破骨細胞と、骨を作る(骨形成)骨芽細胞によって行われています。この骨組織の新陳代謝のことを骨代謝回転と呼び、骨の代謝を繰り返し、正常な骨の構造を維持しています。
しかしながら、この骨吸収と骨形成のバランスが崩れる(骨吸収>骨形成)と骨量の減少につながり、骨粗鬆症を引き起こしてしまうことがあります。
骨粗鬆症の原因
骨粗鬆症の原因は大きく原発性(①、②)のもの、続発性(③~⑦)のものに分類され、原発性は加齢や閉経によって生じるものであり、続発性は医薬品の使用や他疾患が要因となり生じるものです。
両方ともに生活習慣(⑧)が大きく関わってきますが、糖尿病が原因で骨粗鬆症になる場合は続発性に分類されます。
●骨粗鬆症の原因
[原発性]
①加齢にともなう骨量の減少
②閉経によるエストロゲン(女性ホルモン)の減少
[続発性]
③骨形成不全症などの先天性疾患
④カルシウム代謝に異常をきたす内分泌系疾患
⑤吸収不良症候群などの栄養の摂取障害
⑥ステロイド薬などの薬
⑦関節リウマチや慢性腎臓病、糖尿病などの病気
[その他]
⑧運動不足や喫煙、ダイエットなどの生活習慣etc…
糖尿病と骨粗鬆症
糖尿病を患っている人は骨粗鬆症になりやすいということが最近の研究でわかってきました。その原因として考えられているのがインスリンの存在です。インスリンは血糖値を下げる働きするホルモンです。
糖尿病は簡単に言うと血糖値のコントロールができなくなる病気です。インスリンの分泌低下によるⅠ型糖尿病とインスリンの感受性低下によるⅡ型糖尿病に分類されますが、健常者と比較した場合、Ⅰ型糖尿病ではおよそ六倍、Ⅱ型糖尿病ではおよそ二倍ほど骨折する可能性が高いことがわかっています。
またⅠ型糖尿病では骨密度の低下に伴い骨折のリスクが高まりますが、Ⅱ型糖尿病では必ずしも骨密度が低下せずとも、骨折のリスクが高まることが明らかになっています。
私たちの体は血糖、すなわち血液中のブドウ糖を主なエネルギーとしているわけですが、食事により血糖値が上昇すると膵臓からインスリンが分泌され、血糖値を下げるように作用します。分泌されたインスリンの働きにより、各々の臓器が血糖を取り込み、エネルギーとして利用、もしくは貯蔵しています。インスリンがうまく働かないと血中のブドウ糖が臓器に取り込まれず、血糖値が上昇したままになり、さまざまな障害が生じてしまいます。
骨に関しても、インスリンが働かないと骨の組織に異常をきたし、骨粗鬆症になってしまうのです。インスリンは骨を作るために必要な骨芽細胞の増殖に重要な役割をもっているため、糖尿病では骨芽細胞の増殖が減り、骨の形成が低下します。
またインスリンが上手く働かないことで余ってしまった糖質により骨の中にあるコラーゲンの質が悪化してしまうことも、もろい骨になってしまう要因の一つです(骨の糖化と呼ばれている)。加えて糖尿病に併発しやすい腎障害も骨粗鬆症を引き起こす病気の一つです。
骨折のリスクを下げるために
骨粗鬆症で骨折しやすい場所として、背骨や太ももの付け根、手首、腕の付け根などがあります。特に糖尿病患者の場合は低血糖によるふらつきや神経障害などのために、転倒による骨折のリスクが高い傾向にあります。したがって日々の注意力をあげるだけでなく、転倒予防用の靴下や臀部のプロテクターなどを使用することで骨折のリスクを下げることが大切になってきます。
糖尿病を経て骨粗鬆症になったら
当然のことのように思われるかもしれませんが、糖尿病による骨粗鬆症は糖尿病の管理、つまり血糖のコントロールが重要になってきます。医師から指示される食事療法や運動療法をしっかり守っていくことが非常に大切です。
[参考記事]
「糖尿病と動脈硬化の関係とは」