私は糖尿病

貧困層は糖尿病になりやすい。エビデンスを基に解説

糖尿病は、血糖値の恒常的な上昇によって引き起こされる慢性疾患であり、世界的に深刻な公衆衛生上の課題となっている。特に2型糖尿病は、生活習慣や環境要因が大きく影響する病気であるため、個人の選択だけでなく、社会的背景が重要なリスク要因となる。

近年、社会経済的地位(SES: Socioeconomic Status)と糖尿病の罹患率には強い相関があることが、数多くの研究から明らかにされている。すなわち、貧困層は糖尿病になりやすいという現象である。本稿では、そのメカニズムとエビデンスについて多角的に解説する。


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1. 社会経済的地位と健康の関係

まず、社会経済的地位とは、主に収入、学歴、職業などから構成される。これらの要素は、健康行動や医療アクセス、生活環境、ストレスレベルなどに大きな影響を及ぼす。WHO(世界保健機関)やOECD(経済協力開発機構)などは、長年にわたり、低所得者層が慢性疾患にかかりやすいことを警鐘している。

エビデンス:


2. 食生活と栄養の格差

糖尿病の発症リスクを高める大きな要因の一つが、不健康な食生活である。低所得層は、野菜や果物、全粒穀物などの健康的な食品よりも、高カロリー・高脂肪・高糖質な加工食品やファストフードを摂取する傾向がある。これは経済的な要因だけでなく、教育レベルや食文化、周囲の食環境(いわゆる「フードデザート」)にも関係している。

エビデンス:


3. 肥満と身体活動の格差

2型糖尿病は、肥満との関連が非常に強い。運動不足と高カロリーな食生活の積み重ねがインスリン抵抗性を引き起こし、発症に至る。貧困層は、運動の機会や安全な運動空間(公園、スポーツ施設など)に恵まれないことが多く、運動習慣を持つことが困難である。

エビデンス:


4. 精神的ストレスと糖尿病リスク

慢性的なストレスもまた、糖尿病のリスク因子として注目されている。経済的困窮は、将来不安、社会的孤立、精神的圧迫などを通じてストレスホルモン(コルチゾール)を増加させ、インスリン抵抗性の促進に関与する。さらに、ストレスに対処するための不健康な行動(過食、喫煙、飲酒など)も糖尿病のリスクを高める。

エビデンス:


5. 医療アクセスと自己管理能力の格差

糖尿病の予防や早期発見には、定期的な健康診断や医師によるフォローが欠かせない。しかし、貧困層では医療費の自己負担が大きな障壁となり、受診控えや治療の中断が多く報告されている。さらに、教育レベルが低いことから、病気に関する理解やセルフケア能力が乏しい場合も多い。

エビデンス:


6. 子ども・若年層への影響 ― 世代間連鎖の問題

貧困と糖尿病の関係は、一世代にとどまらず、次世代にも影響を及ぼす。幼少期の貧困は、肥満や生活習慣病リスクの高い生活様式を形成しやすく、成人後の糖尿病リスクを高める。また、親の教育レベルが子どもの健康行動や食習慣に強い影響を与えることも分かっている。

エビデンス:


7. 解決へのアプローチと政策提言

糖尿病対策において、個人の努力を促すだけでは根本的な解決には至らない。貧困層の糖尿病リスクを軽減するためには、以下のような構造的なアプローチが求められる。


おわりに

糖尿病は、単なる生活習慣病ではなく、「社会の病」とも言える。貧困層が糖尿病になりやすい背景には、食生活、運動、ストレス、医療アクセス、教育など、複合的な社会経済的要因が存在する。

これらを理解し、エビデンスに基づいた包括的な政策を進めることが、糖尿病の予防・対策には不可欠である。そして何より重要なのは、「誰もが健康になる権利を持っている」という視点から、健康格差を是正する社会の仕組みを築いていくことである。

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