■糖尿病は完治する病気なのか?
糖尿病は「一生の病気」とか「完治しない」とよく言われます。果たして糖尿病は完治しない病気なのでしょうか、それとも完治することのできる病気なのでしょうか。まずは、糖尿病という病気について再確認することから始めてみましょう。
糖尿病は、血糖のコントロールに重要な役割を果たしているインスリンに何らかの問題があることで、高血糖の状態が続く病気です。1型糖尿病は遺伝ではなく、自己免疫疾患の膠原病のように免疫が自身の体を壊してしまうことが原因です。1型糖尿病の場合には免疫が自分のすい臓を攻撃して、機能を壊してしまいます。そうするとすい臓のβ細胞はインスリンを分泌することができなくなりますが、一度壊れてインスリンを分泌できなくなったすい臓を再生させることは、現在の医療では不可能です。その意味においては、1型糖尿病は完治することのない病気です。
そして、2型糖尿病はインスリンが正常に分泌しても脂肪が邪魔して血糖値が下がりにくかったり(インスリン抵抗性と言います)、または遺伝によりインスリン抵抗性が生じたり、すい臓が疲労してインスリンの出が悪くなるなどが原因です。日本人は遺伝的に糖尿病になりやすい体質であるとよく言われるように、この体質上の問題が「遺伝」である場合には、それを根本から治すことはやはり難しいです。このような事情も糖尿病が治らない病気といわれる一因でしょう。
■そもそも「糖尿病が治る」とは?
ここでは2型糖尿病を念頭に話を進めますが、そもそも「糖尿病が治る」というのは、どのような状態のことを言うのでしょうか。
先にも述べましたが、糖尿病は、血糖コントロールの不良のことです。そして、この血糖コントロールの不良は、すい臓の疲労や中性脂肪の蓄積等を原因に引き起こされるものです。すい臓が過労で疲れていてインスリンの分泌能力が低下していることや、中性脂肪がインスリンの効きを妨害するために十分に血糖値を下げる効果が得られないことが問題なのです。
外科手術であれば腫瘍を切除する、内科的治療(薬物投与)であればウイルスを死滅させることが「治った状態」であるとイメージしやすいわけですが、糖尿病はそのような分かりやすい指標としての「治った状態」というものを定めづらい病気だと言えるでしょう。
そもそも糖尿病の治療は「治す」ことを目的としているのでしょうか。糖尿病治療は「血糖値の正常化」を目的に、運動療法・食事療法・薬物療法が行われます。
・運動療法・・・糖を持て余した状態にしないために、摂取した糖をしっかりと使用する
・食事療法・・・糖を持て余した状態にしないために、そもそも使用しきれない多量の糖を摂取しない
・薬物療法・・・合併症を予防するために、持て余した糖を強制的に排除したりして、血糖値への影響を防ぐ
以上から見て取れるように、糖尿病の治療自体が「治す」というよりも「予防」を目的としたものであるのです。より端的にいえば、糖尿病の治療は「糖尿病の合併症の発症予防」にあります。そもそも、糖尿病の診断は、空腹時血糖および食後血糖の値を基準になされますが、その基準自体が、糖尿病の合併症の発生リスクとの関係で定められているわけです。
先ほども書きましたが、壊れたすい臓は回復しませんし、遺伝の情報を変えることも出来ません。ですので、運動療法や食事療法や薬物療法で血糖値が範囲以内だとしても「治った」とは言い難いです。通常の生活に戻せば血糖値の状態は元に戻るからです。ですので、「糖尿病が治ったか、治っていないか」よりも「血糖値をコントロールできているか、できていないか」を考えるほうが適切と言えるでしょう。
■治療のゴールをどう考えるべきなのか
ここまで、糖尿病が私たちの通常の用語法としての「治る」とか「完治する」という言葉には当てはまりづらい病気であることについてお話ししてきました。そうなると、糖尿病治療のゴールは「糖尿病を治すのではなく、運動療法、食事療法、薬物療法で血糖値を正常値に近づけるようにする」ということになります。
ですので、現在インスリン注射や経口血糖降下薬による薬物療法を受けている糖尿病患者が薬物療法から卒業することを「治った(ゴール)」とするのであれば、それは十分に達成可能なことです。また、現在かなり厳しい食事制限を実践している境界型の方が、日々の食事を楽しめるだけの「もう少し緩やかな食事制限にしていくこと」を治療のゴールとするのであれば、これも十分に達成可能なことです。糖尿病の治療の続けていくためにも「とりあえずの目標」が定まっていることはモチベーションを維持するためにも大切なことなのではないかと思います。
実際に、薬物療法を卒業できた糖尿病患者さんはたくさんいますし、血糖値を正常値まで戻すことに成功した境界型の方もたくさんいらっしゃいます。そのためにも、日々の食事や運動といった生活習慣を見つめ直すこと、そしてそれを「継続」していくことが何よりも大切なのです。
[参考記事]
「糖尿病とはどんな病気か。基準値、合併症、予防など」