グルコーススパイクとは
グルコーススパイク(glucose spike)とは、その文字通り、血中の「ブドウ糖glucose」が「急上昇するspike」ことです。私たちは、食事等によって糖質を摂取しますが、それにより血糖値が「急上昇」してしまう現象のことをいいます。
血糖値の急上昇は、当然にそれを元に戻すために血糖値の急低下も併せ起こすことになります。この急激な落差は血管に大きな負担を与えることになります。その結果、動脈硬化などを引き起こしやすくなります。動脈硬化は心筋梗塞、脳梗塞を引き起こす原因になりますから非常に危険です。
また、血糖値が急上昇するということは体内で多量にインスリンが分泌される必要があります。いま現在の空腹時血糖に問題がない人であっても、グルコーススパイクを繰り返すことによって、すい臓の疲労が進むことでインスリンの分泌力が弱くなり、慢性的な糖尿病へと進行してくことにもつながります。
グルコーススパイクは誰にでも起こりうる
糖尿病(もしくはその予備軍)ではない方にとっては「血糖値の話は関係ない」と思っていらっしゃる方が多いかもしれませんが、グルコーススパイクはいま現在糖尿病と診断されているかどうかに関係なく気にするべき問題です。
「今日は健康診断で血液検査があるから朝食抜きだ」という経験はほとんどの人がされていると思いますが、私たちが受ける健康診断等での血液検査は、通常、「空腹時における血糖値」を測定しています。
しかし、グルコーススパイクは「食事の前後における血糖値の差が大きいこと」が問題となるわけですから、通常の血液検査結果で私たちが目にする数値ではわからないのです。
少し極端な例えですが、「白米をドカ食い」すれば、グルコーススパイクは誰にでも起こりうるわけです。その意味では見た目に(検査で出る数値として)わかる慢性的な高血糖よりも、「隠れた高血糖」であるグルコーススパイクの方がはるかに怖いということもできるでしょう。
グルコーススパイクを自覚するには
グルコーススパイクが起きているかどうかを判断するのに最も正確な方法は、血糖値を自分で測定(SMBG:Self Monitoring of Blood Glucose)することでしょう。今では、昔に比べてSMBGのための機器も手に入りやすくなっています。とはいえ、実際に機器を購入し、食事の都度に血糖値を測定するというのは、多くの人にとって現実的ではないかもしれません。
病院によっては、ブドウ糖摂取後の血糖値の推移を計測する検査(75gブドウ糖負荷試験といいます)をしてくれるところもありますが、そのような検査をわざわざ受けるというのも、ご自身が糖尿病であることを強く疑っている人以外にとっては面倒だなと感じるかもしれません。
しかし、グルコーススパイクの状態を放置しておくことはかなり危険ですので、健康診断等で血糖値が高めだと指摘されたことのある方は、以上のような方法できちんと確認されることをおすすめします。
また、最近では、次のような症状の有無によって、グルコーススパイクが生じているかどうかの目安とすることがよくいわれています。
[食後眠くなる]
「昼食後の会議は眠い」と感じている人は多いのではないでしょうか。一つの要因としては「眠くなるほど血糖値が高くなっている」ということが挙げられます。
血糖値が高くなるとオレキシンというホルモンの分泌が低下して眠気を引き起こすためにそのような症状があらわれます。これを逆手にとれば、昼食後に重要な会合があるときには、糖質を控えた昼食にするということを考えるのもよいでしょう。最近では「食べても眠くならない」ことを宣伝文句にしているお弁当も売られていたりします。
[食べたはずなのにお腹が減る]
「あれ、今日の昼食はたくさん食べたはずなのにお腹が減る」と思われたことがある方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。これも食後血糖値が高くなりすぎたこと(糖質を摂取しすぎたこと)が原因です。
私たちの体は、一時的に血糖値が高くなりすぎたときには、本来(血糖値が正常の状態)であれば体内に吸収されるはずの糖分を吸収させずにそのまま体外に尿として排出するようになっています。
そのために、「たくさん食べたはずなのに、もうお腹が減った」という状態になるのです。ですから、これも「血糖値が高くなりすぎた分だけお腹が早く減った」ということなのです。たとえば、糖質の多いお酒(ビールなど)を飲んだ後に最後の締めでラーメンが食べたいというような状況もこの状況だと考えられるでしょう。
[よくイライラする]
先に血糖値の急上昇は血糖値の急低下とセットであることを書きました。血糖値が急激に下がると、これもまた当然ですがそれを元に戻す(血糖値を上げる)ために体が作用します。
具体的には、アドレナリンやノルアドレナリンというホルモンを分泌することで体内調整が図られます。アドレナリンは興奮状態を引き起こし、ノルアドレナリンは怒りや恐怖心を引き起こすホルモンです。高血糖(糖尿病)にストレスは良くないと言われたりするのは、この作用との関係からです。
グルコーススパイクを予防する
以上のような目安を元にすると、多くの人が「わたしもそうなったことがある」と感じたのではないでしょうか。それではグルコーススパイクを避けるために、どのようなことに気をつけたらよいのでしょうか。
[食べ過ぎないこと・よく噛んで食べる]
まず何よりも必要以上に食べ過ぎないことです。食べ物や食べ方に気を配っていても食べ過ぎては意味がありません。過度の食事はそれ自体が体に負担をかけることになります。食べ過ぎないためにも、体から「満腹ですよ」というサインをきちんと出してもらうためにも、「よく噛んで」食べましょう。早食いはダメです。
[糖質に気を使う]
血糖値を上げるのは糖質だけですので、「血糖値を急上昇させない食事」=「糖質量の少ない食事」を心がけるということが大切です。
そのような食事はGI(グリセミック・インデックス)値の低い食材を選ぶことで可能となります。GI値とは、ブドウ糖を基準(100)とした食べ物に含まれる糖質の吸収度合いを示す指数ですから、これが低いということは、血糖値の上がる速度が緩やかであるということを意味しています(ということは血糖値の急低下も防げるということ)。今、流行りの糖質制限ダイエットは以下の「GI値の低い食品」を主に食べます。
〇GI値の高い食品・・・白砂糖、食パン、白米、うどん、ジャガイモ、イチゴジャムなど。
〇GI値の低い食品・・・豆腐、卵、アーモンド、お肉、魚、野菜
[食べる順番に気をつかう]
よく噛んで食べるということは先に書きましたが、食べる順番に気を使うことも大切でしょう。まず野菜から食べ、そして肉・魚、最後にご飯といった順序で食べるということで血糖値の上昇速度を緩やかにするという効果が期待できます。
[適度に運動]
食後の運動が血糖値を下げることはよく知られていることです。サラリーマンであれば昼食後はエレベーターやエスカレーターではなく階段で職場に戻るというような工夫はできます。でも実際は食後にまとまった運動をする時間を取ることは、休日を除いては実際には難しそうです。
最後に
血糖値の話題といえば、「糖尿病」(慢性的な高血糖)という目に見える疾病ばかりがクローズアップされがちです。実際に糖尿病は怖い病気であるわけですが、「隠れた高血糖」であるグルコーススパイクもこれと同じくらいに、もしかしたらそれ以上に怖いものです。
血糖というのは、血液の問題ですから究極的には全身の問題ということになります。グルコーススパイクは、先に紹介したように糖尿病・動脈硬化・心筋梗塞・脳梗塞を引き起こす原因となるだけでなく、がんや認知症そしてペットボトル症候群のような精神障害の原因ともなりかねないことが指摘されています。
急傾斜のジェットコースターはスリル満点で楽しいものですが、それは万全の備え(様々な安全装置や運転基準)があるからこそ「安全な遊び」であるわけです。グルコーススパイクの問題もこれと同じではないでしょうか。「甘い誘惑(糖質)には、必ず落とし穴(高血糖)がある」ので、食べすぎたら運動をするくらいの心構えは必要です。一番は糖質を控えることが一番いいのは言うまでもありません。
[参考記事]
「糖質制限食(低炭水化物食)における糖質1日の必要量」
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