今回は糖尿病の合併症である糖尿病性神経障害について説明していきます。
糖尿病性神経障害は糖尿病の罹患期間と非常に強い関係性があり、罹患期間が20年~30年となると60%と半数以上に神経障害が出るというデーターがあります。また、高齢になればなるほど高い率で症状が現れます。
糖尿病性神経障害の原因
①代謝の障害
「代謝」というのは、体の中の物質が材料Aから産物Bに合成されたり、分解されたりすることをいいます。「代謝の障害」というのは材料Aから産物Cというような「正常とは違う産物」ができる場合、産物Cは多くの場合毒性をもち、体に障害を与えます。
糖尿病の場合、正常よりも高い血糖にさらされるので、正常と違う物質が合成、分解されて、それが障害を起こします。
②血流の障害
細い動脈や毛細管の血流が低下して、細胞に栄養が十分行き渡らなくなり、最終的に組織に障害が出ます。
糖尿病性神経障害には2つの種類があります
①広汎性左右対称性神経障害
名前の通り、例えば右足の先にチクチクし始めると同時に左の足もチクチクします。これが左右対称の意味で、診断の時に重要な点になります。
②単神経障害
単独の細い神経などに障害がでることで顔が麻痺したり、瞼が下がって来たり、物の見え方が変わって来たりします。
一般的には、糖尿病性神経障害とは①の広汎性左右対称性神経障害のことを言っています。
広汎性左右対称性神経障害は症状の出方は2通り
①感覚神経や運動神経の障害
足が痺れるといった症状が現れますが、最終的には感覚が鈍くなります。そして、何かしらの外傷を負ったのに気づかないでいると、そこが感染し、最終的には壊疽になり、足や手の切断を余儀なくされることもあります。
②自律神経障害
自律神経は心臓の動きや血圧などをコントロールしている神経です。この神経に障害が出ると例えばたちくらみや失神、便秘、下痢、残尿感、EDなどが起こります。
糖尿病性神経障害は早期に発見、受診、早期治療が大事
45歳以上で、糖尿病になってから約10年以上経っていて、以下のような自覚症状が出たらすぐに医療機関を受診することをお勧めします。
*早期の症状
①両足の底や指先の感覚が鈍感になっている。
②両足の底や指先がひりひりする。ぴりぴりして痛い
③両足の底や指先がしびれる
これらがもっとも代表的な早期の症状ですが、医療機関を受診した場合、振動している感覚が鈍くなっていないかを音叉を使って確かめたり(足の前で音叉を鳴らし、その響きをある一定時間、感じるかどうか)、アキレス腱を叩いて反応するかどうかを確かめます。
*進行期の状況
①慢性的な痛み
②感覚鈍化、喪失
③足の筋肉群が委縮し足が変形
④足の裏の潰瘍
⑤足の感染
他の末梢神経障害が除外できるか
末梢神経障害は、糖尿病由来の神経障害と他の疾患の症状が重なるところがあるので、他の末梢神経障害との区別は治療計画の重要な点となります。
糖尿病からくる神経障害であれば糖尿病の治療の延長上で行われ、他の末梢神経障害であれば原因を探し、それに合った治療が必要となります。この違いが治療方針を決めるために必要な判断となります。
糖尿病由来の神経障害と他の末梢神経障害の違いは
①片手や片足だけの症状であれば糖尿病以外の末梢神経障害を疑う必要を考えます。
②糖尿病の場合は、数か月かかりだんだん痛みがましてくる慢性の場合が多いのですが、進行が速い場合は他の末梢神経障害を疑う必要があります。
③アルコールの摂取が多く栄養失調の場合、アルコール性神経障害の疑いがあります。
糖尿病性神経症が進行しないようにするのは
糖尿病からくる神経障害と診断が確定した場合にどのように進行を止めるのか、またどう予防するのでしょうか。
糖尿病性の神経障害の予防には「厳しい血糖コントロール」が一番効果が認められています。高齢であり、糖尿罹患期間が10年を超える場合、予防の意識を高く持つことが大切で、できるだけ早くから厳格なコントロールをすることが重要です。
糖尿病性神経障害の対症療法
既に重症の神経障害に至っており、強い痛みやしびれの自覚症状がある場合、神経の切断や圧迫、変性が元に戻るとは限りません。その場合、血糖コントロールだけでは痛みは抑えられないので、痛みやしびれを抑える対処療法が必要です。
また、急激に血糖コントロールをしたりすると神経障害が軽度であるにもかかわらず、強い痛みが出る場合もあり、これらの場合、いわゆる痛み止め、疼痛コントロールが必要となります。
糖尿病性神経障害によるQOLの低下
糖尿病性神経障害の慢性の疼痛というのは、痛みがずっと長く続くということを言います。まず重要なのは医療機関に行かれた時に、正確に痛みの種類と程度を正確に伝えられるかが大切です。それを正確に把握することがその痛みを取り除く疼痛コントロールの微調整に必要です。
非常に重度になり慢性の痛みに進展した場合、疼痛コントロールを持続させていかなければなりません。効きすぎてボーとしてしまい他に何もやりたくなってしまったり、効きが足りなくて痛くて睡眠不足でつらい、などのことを避けられるように、本人の個性や人生、通常生活にあった適正な処置を医療者とのコミニケーションで見つけていくことが必要です。
ですので、患者と医者側で「どこがどれくらい痛い」という正確な伝達は、具体的に痛みの種類や程度、場所をつたえることになり、前回の処方などからすると今回はどうするべきかなどの正確な微調整にとても重要です。
「ジンジン、ピリピリ、ずきずき」など言葉の持つ意味を事前に正確に知っておくのも大切です。医療者が、「ずきずきですね」、「ジンジンですね」とかいう問いに、「はあ」とか、あまりよく理解せず適当に答えるのは避けるようにするべきです。
痛みによって外出などの機会も減ったりするので、周りのコミニティーからの孤立を感じる結果になることもあります。神経障害は、このように重度になるとすべての痛みをとることが困難になり、完全に痛みがなくならないこともあります。このような社会的な痛みを伴う場合があり生活の質の低下、QOLの低下に直接つながる重大な疾患と言えます。
趣味や外出など、痛み以外のことに目を向け、痛みと付き合って積極的な生活、人生にかえていくことが望まれています。
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